寺院でのヨガ教室運営―宗教活動と収益活動の狭間で

はじめに

寺院という空間の新しい可能性

静謐な空間、心を落ち着かせる雰囲気。寺院は、現代人が求める「心のオアシス」としての条件を備えています。

そんな寺院でヨガ教室を開催する試みが、各地で始まっています。しかし、その実現には「宗教活動と収益活動の微妙なライン」という難しい課題が横たわっています。

ある都市部の寺院で始まったヨガ教室の取り組みから、寺院での新しい活動の可能性と課題を探ります。

ヨガ教室開催の現実―無償奉仕の限界

この寺院では、定期的にヨガ教室を開催しています。しかし、その運営方法には大きなジレンマがあります。

「場所代だけもらわず、こちらは一切お金をいただいていない形で今ヨガ教室はしている」―この言葉が示すように、完全なボランティアベースでの運営です。

なぜ無償なのか

その理由は、「宗教活動と収益活動の微妙なライン」にあります。寺院という宗教施設で行う活動が、営利目的と見なされることへの懸念です。特に税務上の扱いや、檀信徒からの見られ方を考慮すると、慎重にならざるを得ません。

準備の負担と報酬のアンバランス

しかし、無償だからといって準備が簡単なわけではありません。「ヨガ教室の準備も個人的には結構大変」と寺院関係者は語ります。

さらに、このヨガ教室には「読経と法話もプログラムの中に含まれている」とのこと。つまり、単なる場所提供だけでなく、宗教的な要素も含めた総合的なプログラムを提供しているのです。

「そこでやっぱり1円も発生していないっていうのはちょっと残念な気持ちも正直ある」―この正直な言葉は、多くの寺院関係者が抱える思いを代弁しています。

成功事例に学ぶ―NPO法人を活用した運営

では、どうすればこのジレンマを解決できるのでしょうか。一つの成功事例があります。

ある寺院のNPO法人モデル

ある地域の寺院では、関係者がNPO法人を設立し、そこを通じて様々な活動を展開しています。このNPO法人では、「縁」と「楽しむ」という意味を込めた名称で、僧侶同士の交流的な意味も含めた活動をしています。

運営の仕組み:

  • 寺院の場所をNPO法人に貸し出す形を取る
  • 参加費はNPO法人が受け取る
  • NPO法人から寺院に場所代を支払う
  • 残った収益は寺院に還元する仕組み

この方法により、宗教法人である寺院と、社会活動を行うNPO法人を明確に分離しながら、最終的には寺院の運営にも貢献する形が実現しています。

NPO法人活用のメリット

税務上の明確化: 収益活動をNPO法人で行うことで、税務上の扱いが明確になります。

活動の自由度: NPO法人として様々な社会活動に取り組める自由度が生まれます。

檀信徒の理解: 寺院本体とは別組織という形を取ることで、檀信徒からの理解も得やすくなります。

持続可能性: 適切な対価を得ることで、活動の持続可能性が高まります。

宗教活動とは何か―線引きの難しさ

ヨガ教室に読経や法話が含まれる場合、それは明らかに宗教的要素を持っています。しかし、だからといってすべてを無償で提供すべきなのでしょうか。

ボランティアの美徳と持続可能性

日本の寺院では、「お寺でやってることって結構ボランティアに近いところも結構多い」というのが実情です。地域貢献、社会貢献の精神は尊いものですが、それだけでは持続できません。

寺院も建物の維持管理、光熱費、人件費など、様々なコストがかかります。ボランティア精神だけに頼った運営は、結局のところ、活動自体を縮小・中止せざるを得ない状況を招きかねません。

適切な対価をいただくという考え方

ここで重要なのは、「適切な対価をいただく」という考え方です。それは強欲ではなく、活動を継続するための必要経費であり、同時にサービスの質を保証するものでもあります。

ヨガのインストラクター、場所の提供、プログラムの企画運営、法話の準備。これらすべてに価値があり、それに見合った対価を受け取ることは、決して恥ずべきことではありません。

家族の反対と理解―「負担を増やさないで」

新しい取り組みには、しばしば家族からの反対があります。この寺院でも、「家族からはちょっともうこれ以上負担増やさないでほしいっていう声もある」という状況です。

なぜ家族は反対するのか

人手の問題: 家族経営の寺院では、新しい活動は家族全員の負担増につながります。

リスクへの懸念: 新しい試みが檀信徒からどう受け止められるか、不安があります。

世代間の価値観の違い: 若い世代の革新的な考え方と、伝統を重んじる世代との間にギャップがあります。

理解を得るために

この課題に対して、いくつかのアプローチが考えられます。

役割分担の明確化: 「誰が何をするのか」を明確にし、特定の人に負担が集中しないようにする。

成果の可視化: 参加者の声や、活動による好影響を具体的に示す。

段階的な導入: いきなり大規模に始めるのではなく、小さく始めて徐々に拡大する。

外部リソースの活用: インストラクターや運営スタッフを外部から招くことで、家族の負担を軽減する。

他の寺院活動との組み合わせ

ヨガ教室単体ではなく、他の活動と組み合わせることで、相乗効果が生まれます。

朝のお勤めとの連携

「早朝からの朝のお勤めにも檀信徒が参加できる」という寺院では、お勤めの後にヨガ教室を開催することで、心と体の両面からアプローチする総合的なプログラムが可能です。

ただし、現実には「だんだん来られる数は少なくなってきている」とのこと。檀家の高齢化や居住地の変化により、定期的な参加が難しくなっている状況があります。

座禅会や法話会との違い

従来から行われてきた座禅会や法話会と比べて、ヨガ教室には何が新しいのでしょうか。

参加のハードルの低さ: 「ヨガ」という言葉は宗教色が薄く、初めての人も参加しやすい印象があります。

健康志向との親和性: 現代人の健康志向と合致し、特に女性の参加者を集めやすい傾向があります。

視覚的なわかりやすさ: 体を動かす活動なので、参加後の充実感が実感しやすいという特徴があります。

立地を活かした展開―都市部寺院の強み

都市部の寺院には、立地という大きな強みがあります。「ビジネスマンや外国人が多い」という環境を活かし、様々な可能性が広がります。

ビジネスマン向けの朝ヨガ

出勤前の時間帯に、短時間でリフレッシュできるヨガ教室。これは都市部ならではの需要です。ストレス社会で働く人々にとって、出勤前に寺院で心と体を整える時間は、大きな価値があります。

インバウンド需要への対応

「外国人向けのアクティビティ」として、ヨガと日本文化(読経、法話、茶道など)を組み合わせたプログラムは、観光客に人気です。寺院という「本物の」日本文化空間でのヨガ体験は、他では得られない特別な経験となります。

会館の活用

「会館がお寺に併設されている」場合、その空間を多目的に活用できます。老朽化した会館の建て替え時に、ヨガやその他のアクティビティに適した設計にすることも一案です。

収益モデルの検討

では、具体的にどのような収益モデルが考えられるでしょうか。

参加費設定の考え方

相場を調査: 周辺地域のヨガ教室の料金を参考にする。

段階的な価格設定: 初回体験は低価格、回数券は割引など。

会員制の導入: 定期的に参加する人向けに月会費制を設ける。

場所代の考え方

寺院が場所を提供する対価として、どの程度の場所代が適切でしょうか。

光熱費の実費: 最低限、使用した光熱費相当額はいただく。

維持管理費: 建物の維持管理にかかるコストの一部を負担してもらう。

市場価格の参考: 周辺の貸しスペースの料金を参考にする。

寺院への還元

収益の一部を寺院の維持管理や、他の宗教活動に還元する仕組みを明確にすることで、収益事業であっても寺院の本来の目的に沿っていることを示せます。

法的・税務的な注意点

収益活動を行う際には、法的・税務的な整理が必要です。

収益事業として申告: 一定規模を超える収益がある場合、収益事業として税務申告が必要になる可能性があります。

宗教法人の目的との整合性: 宗教法人の目的に沿った活動であることを説明できるようにしておく。

NPO法人設立の検討: 前述の成功事例のように、別法人を設立することも選択肢です。

専門家(税理士、宗教法人に詳しい弁護士など)に相談しながら、適切な形を整えることが重要です。

まとめ―新しい寺院活動の可能性

ヨガ教室という一つの例から見えてくるのは、寺院が持つ空間と精神性の価値です。その価値を現代人に届けるために、どのような形が適切なのか。それは各寺院が、自らの状況に応じて考えるべき課題です。

完全な無償ボランティアでもなく、露骨な営利事業でもない。宗教活動の本質を保ちながら、持続可能な運営を実現する。その微妙なバランスを取ることが、現代の寺院に求められています。

「結構ボランティアに近いところも多い」という現状から、「適切な対価をいただきながら、質の高い活動を継続する」という未来へ。ヨガ教室の事例は、その一つの道筋を示しているのかもしれません。

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