40代からの独立は遅くない――会社員から行政書士へ、ある先生の挑戦の軌跡

はじめに

「独立するなら若いうちに」。そうした考え方は、今も根強くあるかもしれません。家庭を持ち、子どもを育て、会社で一定の立場を築いた40代にとって、新たな道に踏み出すことには大きな勇気が必要です。思いはあっても、実際に行動に移す人は決して多くありません。

今回お話を伺ったのは、45歳で独立を志し、会社員として働きながら資格の勉強を重ね、50歳で行政書士としてデビューした、とある先生です。先生は今年1月から専業の行政書士として独立し、現在は許認可業務、相続、そして墓じまいに関する業務に取り組んでいます。

本稿では、40代から新たなキャリアを切り拓いてきた先生の歩みをたどりながら、年齢を重ねてからの挑戦に必要なものは何かを考えていきます。

第1章 40代半ば、人生を見つめ直した時間

先生が独立を考え始めたのは、45歳のときでした。当時の先生は、民間企業で長年にわたり営業職を務めていました。

転機のひとつとなったのは、家庭の変化です。子どもたちが成長し、休日に友人と過ごす時間が増えるなど、親の手を離れつつある時期でした。さらに、社会全体が感染症の流行によって大きく変化し、外出の機会が減るなかで、一人で考える時間が多くなったといいます。

その時間の中で、先生はこれからの人生について深く考えるようになりました。これまで営業の仕事しかしてこなかった自分に、ほかに何ができるのか。先生はご自身について「手先が不器用なので、職人にはなれない」と笑いながら語ります。

そして、このまま会社員として定年を迎え、給料が下がった状態で会社にしがみつき、その後の人生を持て余すような生き方は嫌だと感じるようになりました。それよりも、65歳、70歳になっても「会社員時代より自分の力で稼いでいる」と胸を張れる人生を送りたい。その思いが芽生えてからの先生の行動は、非常に早いものでした。

第2章 独立を後押しした条件と決断

40代で家庭を持つ人が独立を考えたとき、多くの場合、足かせとなるのは経済的な不安です。子どもの教育費、住宅ローン、日々の生活費。思いはあっても、それらを考えると一歩を踏み出せない、という方は少なくないでしょう。

先生の場合、ひとつ大きな条件がそろっていました。それは、40歳前後の時点で住宅ローンの返済を終えていたことです。繰り上げ返済を重ねるなどして、比較的早い段階で完済していたことが、独立への挑戦を現実的なものにしました。

もちろん、それだけで独立に踏み切れるわけではありません。先生はまず、会社を辞めることなく、会社員として働きながら資格の取得と準備を進める道を選びました。いきなり退路を断つのではなく、着実に力を蓄えていく。この慎重さと行動力のバランスが、先生の挑戦を支えていたと言えるでしょう。

また、どの分野で独立するかについても、先生は冷静に考えました。それまで勤めていた会社と競合するような仕事は避けたいという思いから、士業の道を選んだのです。

第3章 資格取得の歩み――FP3級から行政書士まで

45歳で勉強を始めた先生が、最初に取り組んだのはファイナンシャルプランナー(FP)3級でした。そこから2級へ進み、さらに上位資格であるCFPを取得。続いて宅地建物取引士(宅建)、そして行政書士の資格を取得していきました。

驚かされるのは、そのペースです。先生はこれらの資格を、ご自身の感覚としては「すべて一発合格」で取得してきたといいます。

「自分の感覚では」という言葉には理由があります。宅建試験は10月、行政書士試験は11月に実施されます。先生は宅建試験を受けた後、手応えを得たうえで、わずか1か月の準備で行政書士試験に臨みました。その年は不合格でしたが、翌年に本格的に準備をして合格を果たしています。実質的な準備期間を考えれば、確かに一度の挑戦で合格したと言ってよいでしょう。

先生は大学へは進学しておらず、学生時代の成績も「可もなく不可もなく」だったと振り返ります。特別な学歴や素養があったわけではなく、ご自身の言葉を借りれば「努力する才能だけはあったみたい」とのことです。

では、どのように勉強を進めたのでしょうか。先生の答えは明快でした。宅建については、10年分ほどの過去問題をすべて覚えるつもりで繰り返し取り組んだといいます。試験の難しさを十分に理解したうえで、最も確実な方法を愚直にやり抜く。その姿勢が、短期間での合格につながったのです。

第4章 社会人の学びを支えるもの

年齢を重ねると、学生時代に比べて記憶力や集中力が衰えるのではないか。社会人になってから資格の勉強を始める方の多くが、そうした不安を抱えています。

この点について、先生は興味深い考えを示してくださいました。「親にお金を出してもらって、やらされている勉強はだめ。自分でお金を出して、自分でやる勉強は、やっぱり頭に入ってくる」。

学生時代の勉強は、どこか受け身になりがちです。一方で、社会人になってから自ら目標を定め、自分の資金と時間を投じて取り組む勉強には、明確な目的と覚悟があります。「本気の度合いが違う」という先生の言葉には、実体験に裏打ちされた説得力があります。

年齢による不利を嘆くのではなく、社会人だからこそ持てる動機と覚悟を力に変える。先生の歩みは、40代、50代から学び直しを考える多くの方にとって、大きな励みになるのではないでしょうか。

第5章 50歳での開業と、支えてくれる人のつながり

こうして資格を取得した先生は、会社員と並行しながら実務の準備を進め、50歳で行政書士としてデビューしました。そして昨年末まで会社員としての勤務を続けたのち、今年1月から専業として独立しています。

デビューが遅いことを自覚していた先生は、多くの同業者が敬遠する風営法関連の許認可業務から実務を始めました。人がやらない分野だからこそ、後発者にも活躍の余地があると考えたのです。

その後、先生の業務は、異業種交流会の仲間たちの支えによって広がっていきました。建設業や産業廃棄物関連の許認可業務では、仲間から「練習としてやってみなよ」と経験の機会を与えられました。また、同じく交流会の仲間の紹介で、墓じまい業務を専門とする先輩の行政書士と出会い、現在は共に業務に取り組んでいます。保有するCFPの知識を生かし、相続に関する業務にも着手しました。

先生は、独立後の最初の数年間を「土台づくりの時期」と位置づけ、人とのつながりを大切にしながら日々の業務に向き合っています。独立を後悔したことは一度もないと語るその表情からは、自らの選択に対する確かな手応えが感じられました。

昔の友人たちと会うと、「なぜ会社を辞めたのか」「言っていることがよくわからない」と言われることもあるそうです。それでも先生は、自分の選んだ道を着実に歩み続けています。

まとめ

45歳で人生を見つめ直し、会社員として働きながら資格取得に挑み、50歳で行政書士としてデビューする。先生の歩みは、40代からの独立が決して遅くはないことを、身をもって示しています。

その道のりを支えていたのは、特別な才能ではなく、自ら決めた目標に向かって努力を重ねる力と、慎重さと行動力を兼ね備えた準備、そして周囲の人々とのつながりでした。

現在、先生が特に力を入れているのが墓じまいに関する業務です。墓じまいや改葬は、ご相談者の多くが人生の後半に向き合うテーマであり、ご本人やご家族の思いに寄り添う姿勢が何より求められます。人生経験を重ねてから専門家となった先生だからこそ、ご相談者の立場に立った丁寧な対応ができるのではないでしょうか。

お寺の住職の皆さまや終活に携わる専門家の方々にとっても、こうした行政書士の存在は、檀家さんやご相談者を支えるうえで心強い連携先となるはずです。年齢を重ねてからの挑戦には、若さとは異なる強さがある。先生の歩みは、そのことを静かに、しかし力強く教えてくれます。

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