はじめに
変化する寺院を取り巻く環境
日本の寺院は今、大きな転換期を迎えています。檀家制度の弱体化、地方の過疎化、都市部でも進む檀家の郊外化。こうした環境変化の中で、寺院はどのように持続可能な運営を実現していけばよいのでしょうか。
ある寺院では、年間多数の葬儀を執り行いながら、同時にペット霊園事業、納骨堂運営など、多角的な事業展開を進めています。その取り組みから、現代寺院経営のヒントを探ります。
本堂葬儀の復権―失われた当たり前を取り戻す
「なぜ葬儀会館で葬儀をするんだろう」―この素朴な疑問が、本堂葬儀復権の出発点です。
かつて葬儀は寺院の本堂で行われるのが当たり前でした。しかし高度経済成長期以降、葬儀会館が全国に広がり、今では都市部の葬儀会館には本堂さえないケースも珍しくありません。
ある副住職によれば、「絶対何分以内に終わらせてください」「基本1時間で、終わる時間はもう決められている」という時間制約の中、「巻きでやってください」と急かされることもあるそうです。
これに対して、本堂での葬儀には時間的な余裕があります。故人を偲び、遺族が十分に悲しみと向き合える空間と時間。それは本来、葬儀が持つべき大切な要素です。
本堂葬儀実現のための課題
しかし、本堂葬儀を実現するには課題もあります。
会館の老朽化: 多くの寺院には併設の会館がありますが、数十年を超えるものも少なくありません。「昔はお葬式に使われていたが、今は使われていない」という状況です。
設備の不足: 現代の葬儀に必要な設備(控室、参列者用トイレ、駐車場など)が不十分な場合があります。
人手の問題: 家族経営の寺院では、葬儀対応による負担増加が懸念されます。
葬儀会社との連携という解決策
これらの課題に対する一つの解決策が、葬儀会社との連携です。ある寺院では、上場企業の葬儀会社と提携し、「本堂葬儀」を推進しようとしています。
重要なのは、場所代を寺院に落とし、運営は葬儀会社が担当するという役割分担です。寺院は場所と宗教的価値を提供し、葬儀会社は実務面をサポートする。このwin-winの関係が、本堂葬儀復権の鍵となります。
ペット霊園事業―数年越しの実現と大きな可能性
ペット霊園は、現代の寺院経営において非常に有望な事業です。ある寺院では、構想から実現まで数年を要したものの、今では重要な収益源となっています。
なぜ実現に時間がかかったのか
新しい事業を始めることへの抵抗は、多くの寺院に共通する課題です。「なんでそんなもの持ってくるんだ」という檀家からの反対の声。伝統を重んじる寺院において、ペット霊園は必ずしもすんなりと受け入れられるものではありませんでした。
ある寺院では、「最後の最後まで反対する人間がいた」といいます。しかし、「今のままだったらしんどい」という現実と向き合い、大きな決断をしました。反対する関係者との調整を経て、信頼できる人材を集めて新体制を作り上げたのです。
ペット霊園成功のポイント
地域での優位性: その地域で大規模なペット霊園を運営している寺院がなかったため、「これだったら優位性を持てる」という戦略的判断がありました。
資金の確保: 全額を自己資金から出資することで、寺院側のリスクを最小限に抑えました。
広告戦略: Web広告を積極的に展開。ただし、広告をかけたことを事前に伝え忘れると、寺院に直接問い合わせが殺到し、「負担をかけるのをやめてくれ」と言われることもあるため、コミュニケーションが重要です。
火葬業者との連携: 単独で全てを行うのではなく、専門の火葬業者と組むことで、クオリティの高いサービスを提供できます。
ペット霊園の需要
「ペットは需要ありますよね、絶対」という言葉通り、ペット霊園への需要は確実に存在します。ペットを家族同然に考える人が増える中、ペットの供養に対する関心は高まる一方です。墓地があり、御堂があるなら、ペット霊園事業は検討に値します。
納骨堂運営―コンプリートされた供養サービス
葬儀、お墓、樹木葬、納骨堂。この4つのラインナップが揃えば、「他に行かない」と言われるほど、寺院は総合的な供養サービスを提供できます。
納骨堂の重要性
都市部では特に、従来型のお墓を持つことが難しくなっています。管理の負担、継承者の問題、費用面での課題。こうした中で、納骨堂は現実的な選択肢として注目されています。
自動搬送式納骨堂の注意点
一時期流行した自動搬送式の納骨堂ですが、「年間1億円かかる」という維持費の高さから、「むやみに手を出しちゃダメ」という警鐘も鳴らされています。多くの事業者が苦戦しているのが現状です。
従来型の納骨堂でも、適切な運営と管理があれば、十分に檀信徒のニーズに応えられます。むしろ、身の丈に合った運営が長期的には成功につながります。
会館のリノベーション―多目的化への挑戦
先述の通り、多くの寺院には老朽化した会館があります。この会館をどう活用するかが、今後の寺院経営の鍵となります。
考えられる活用方法
葬儀会館としての再生: 設備を現代化し、本堂葬儀の受け入れ態勢を整える。
納骨堂への転用: 建て替えの際に納骨堂を組み込む設計にする。
宿坊への転換: 観光需要を取り込み、特に外国人向けの宿泊施設として活用する。都心や観光地に近い寺院では有望な選択肢です。
カフェ等の商業施設: 地域に開かれた空間として、日常的に人が集まる場所にする。
ある都市部の寺院では、「外国人向けの宿泊施設、宿坊みたいな感じにするか、カフェにするか」と具体的に検討が進んでいます。立地の良さを活かし、ビジネスマンや外国人観光客にアクティビティを提供する場所にしたいという構想です。
樹木葬への対応
樹木葬も現代的な供養の形として需要が高まっています。ある寺院では、「まだ開く予定のお墓がなかなか開かない」という事情で実現していませんが、「そのスペースにペット墓を立てる予定」と、柔軟に計画を調整しています。
墓地の空きスペースを有効活用し、樹木葬とペット霊園を組み合わせることで、限られた土地を最大限に活用できます。
総合的な供養サービスの提供―ワンストップの強み
「葬儀、お墓、樹木葬、納骨堂の4つのラインナップがあれば他に行かない」―この言葉が示すように、寺院が総合的な供養サービスを提供できることの強みは計り知れません。
新規檀家獲得のメカニズム
興味深いのは、新しいサービスを通じて檀家になる方が確実に存在することです。ある寺院関係者は、「帳簿を見ていたら、葬式を挙げたところが檀家になっていた」と語ります。
従来の地縁・血縁に基づく檀家制度とは異なる、サービスを通じた新しい繋がり。これは現代における寺檀関係の一つの形といえるでしょう。
葬儀屋との連携の重要性
多くの寺院では、葬儀屋との連携がなかったものを新たに始めることで、「檀家数が増えている」ケースもあります。葬儀という最初の接点から、継続的な関係へと発展させる仕組みづくりが重要です。
資金調達の課題と工夫
これらの事業を展開するには、当然ながら資金が必要です。特に建て替えともなれば、「多額」の費用がかかります。
寄付を集めない戦略
従来の寺院建設は、檀信徒からの寄付を中心に進められてきました。しかし、ある寺院では「寄付を集めない方向」を選択しています。
その理由は、「寺院側がどれだけお金を出すかを見せることが大事」という考えです。住職、副住職が具体的な金額を提示し、「これだけ我々が出しました。すみませんが、あとお願いします」という形で本堂改修に臨む。一方、納骨堂や会館については借金をして進める。
このアプローチには、「ちゃんとしっかりと見てくれている人は、多分お金を出してあげるよと言ってくれる」という信頼関係が前提にあります。強制的な寄付ではなく、自発的な支援を引き出す戦略です。
まとめ―持続可能な寺院経営のために
寺院の多角的経営戦略は、決して伝統からの逸脱ではありません。むしろ、変化する社会の中で寺院の役割を再定義し、持続可能な形で次世代に引き継ぐための現実的なアプローチです。
本堂葬儀、ペット霊園、納骨堂、樹木葬。これらは全て、人々の「供養したい」という気持ちに応えるサービスです。時代とともに供養の形は変わっても、故人を偲び、命の尊さを感じる場としての寺院の価値は変わりません。
「日本の歴史文化はお寺や神社にある。そこを一軒でも残すことが僕らの役割」―ある住職のこの言葉は、多角的経営の真の目的を示しています。それは単なる収益確保ではなく、日本の文化的資産としての寺院を未来に残すための戦略なのです。
専門家の窓口について
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