宗教法人が直面する行政手続きの深淵――土葬墓地の開設から墓地拡張の壁まで、専門家が語る「信頼」の重要性

はじめに

現代の日本社会において、お寺や神社といった宗教法人は、単なる信仰の場を超えた「地域のインフラ」としての側面を持っています。しかし、その運営を支える法的な基盤―特に「墓地埋葬等に関する法律(墓埋法)」に関わる行政手続きは、極めて複雑かつ専門的です。

今回は、長年宗教法人の管理運営に携わり、現在は行政書士として数多くの難題を解決してきたある専門家の視点から、多文化共生社会における「土葬墓地」の成功事例と、地域住民との合意形成に苦む「墓地拡張」の失敗事例、そしてこれからの時代に求められる寺院運営のあり方について深く掘り下げます。

墓地法務のスペシャリストとして

多くの行政書士が相続や建設業許可などを主軸にする中で、今回お話を伺った専門家は「墓地や納骨堂の事業許可申請」という、非常にニッチかつ専門性の高い分野をライフワークとしています。

「お寺さんの手続きは、不慣れな方が非常に多いのが実情です。必要な書類は膨大で、行政との調整も一筋縄ではいきません。最短ルートで、かつ法令遵守(コンプライアンス)が保たれた状態へ導くことが私の使命です」と彼は語ります。彼を突き動かしているのは、自身が長年宗教法人の現場で霊園運営に携わってきたという、他の士業にはない実務経験に基づいた自負です。

そんな彼が手掛けた案件の中でも、日本の墓地行政に一石を投じたのが、イスラム教徒のための「土葬墓地」開設プロジェクトでした。

【成功事例】多文化共生への挑戦――土葬墓地開設の舞台裏

  1. 信仰と現実の狭間で

日本における埋葬は、その99%以上が「火葬」です。しかし、イスラム教や一部のキリスト教など、世界には「土葬」を宗教上の絶対的な原則とする人々が数多く存在します。

来日して日本で生活を営み、この地で生涯を終える外国人が増える中で、深刻な問題となっているのが「死後の行き場」です。不慮の事故や病で亡くなった際、遺族は「火葬」という選択を受け入れることができず、かといって母国へ遺体を搬送するには100万円を優に超える多額の費用と手間がかかります。

「日本で、この地で、自分たちの信仰に基づいた土葬ができる場所を探してほしい」。ある宗教コミュニティからの切実な訴えが、プロジェクトの始まりでした。

  1. 「見えない壁」を乗り越える

土葬墓地の開設に向けた調査は困難を極めました。法律上、日本で土葬を禁止する規定は存在しません。しかし、現実には多くの自治体が条例や墓地の経営許可条件において「土葬をしないこと」を付記しており、実質的な規制となっています。

専門家は、最近まで土葬の風習が残っていた地域や、既存の許可条件に柔軟性がある場所を徹底的に調査しました。しかし、最大の壁は行政ではなく「感情」でした。「外国の方には使わせたくない」「土葬は不衛生ではないか」といった、根拠のない忌避感が根強く残っていたのです。

  1. 歴史的背景と「シンパシー」がもたらした突破口

難航する中で見つけたのは、ある地方にある、特定のルーツを持つ寺院でした。その寺院はもともと土葬を行っていた歴史があり、周辺住民も土葬に対して一定の理解がありました。

「幸運だったのは、その寺院の背景と、土葬を求めるコミュニティとの間に、異国で生きる者同士の『シンパシー(共感)』があったことです」と専門家は振り返ります。

彼は、行政に対しては「法律や条例に違反しないこと」を論理的に説明し、近隣住民に対してはお寺の住職と共に一軒一軒丁寧に説明に回りました。約1年の歳月をかけ、既存の墓地を土葬用として活用できるように切り替える手続きを完了させました。その結果、コミュニティはまとまった区画を確保することができ、「これで安心して最後を迎えられる」と、多くの人々が安堵の表情を浮かべたといいます。

【失敗事例】墓地拡張を阻む「見えない拒絶」

一方で、どれほど専門知識を尽くしても、解決が困難な事例も存在します。その代表格が、既存墓地の「拡張申請」における住民合意の失敗です。

  1. 法律よりも重い「住民の同意」

墓地を広げる際、多くの自治体では「近隣住民の同意」や「自治会の承諾」を事実上の要件としています。専門家が携わったある案件では、法的な基準はすべて満たしており、環境への配慮も万全であったにもかかわらず、近隣住民の猛烈な反対により計画が頓挫しました。

反対の理由は多岐にわたります。「墓地が広がるとは知らずに家を建てた」「景観が悪くなる」「なんとなく気持ちが悪い」といった感情的な反発です。

  1. 日頃の「徳」が手続きを左右する

専門家は、この失敗の本質を次のように分析します。 「手続きがうまくいかない最大の理由は、実は法律の問題ではなく、お寺さんと地域住民との日常的な付き合いの希薄さにあります」。

昔からその場所にお寺があり、将来的に墓地が広がる可能性があることは、論理的に考えれば予見できることです。しかし、普段から地域活動に参加していない、あるいは住民と顔を合わせる機会が少ないお寺が、いざ「許可がほしい」という時だけ歩み寄っても、住民は「自分たちの生活環境が一方的に侵害される」と感じてしまいます。

「どんなに優れたコンサルティングを行っても、日頃の信頼関係という土台がなければ、同意の印鑑をいただくことはできません。お寺さんの『お人柄』が伝わっていないことが、最大の障壁になるのです」。

多様化する供養と、これからの宗教法人が歩むべき道

土葬墓地の成功と、拡張手続きの失敗。この二つの事例から見えてくるのは、これからの寺院運営に必要なのは「専門知識」と「共感力」の掛け合わせであるということです。

  1. 多様性への対応は「生存戦略」

現在、お墓の世界では様々な暮らし方の方々への対応や、ペットと共に眠れる墓地、さらには夫婦別姓による埋葬など、これまでの「家族の形」に縛られないニーズが急増しています。 「これらの多様性を認めることは、単なる人道的な配慮ではなく、お寺が将来的に生き残るための生存戦略でもあります。販売の間口を広げなければ、墓じまいの流れを止めることはできません」と専門家は指摘します。

  1. 専門家が担う「お節介」の役割

彼は自らの仕事を「あえてお節介に」行うことを信条としています。 「士業にありがちな『偉そうな先生』ではいけない。あえて踏み込んで、お寺さんの内情を世間に、あるいは行政に正しく伝える『翻訳者』にならなければなりません。行き違いをなくすための『お節介』こそが、トラブルを未然に防ぐのです」。

  1. 未来への展望

将来、日本における土葬の問題はさらに顕在化していくでしょう。また、実態のない不活動法人の整理や、不透明な法人売買の問題など、宗教法人が直面する法的課題は山積みです。

「お墓のことなら、宗教法人のことなら、あの専門家に聞けば間違いない。そう言っていただける存在を目指して、これからも謙虚に、そして時にはお節介に、現場を支え続けていきたい」。

 

——————————————————————————–

 

終わりに

今回の事例紹介を通じて明らかになったのは、墓地行政という冷徹な法律の世界においても、最後は「人と人との繋がり」がすべてを決定するという真理です。

成功した土葬墓地には、異文化を認め合う「共感」がありました。失敗した墓地拡張には、日頃の「コミュニケーション」の欠如がありました。お寺という聖域を、現代社会のルールの中で守り、発展させていくためには、住職の慈悲の心と、専門家の鋭い知見、そして地域住民への誠実な姿勢。この三者が重なり合うことが、何よりも重要です。

 

関連記事

  1. 田村実貴雄行政書士(兵庫県)

  2. 千田大輔 行政書士(北海道)

  3. 宮川譲行政書士(香川県)

  4. 菊池美弥行政書士(静岡県)

  5. 両國剛行政書士(宮城県)

  6. 池加菜子行政書士(福岡県)