現代において、多くの寺院が「檀家離れ」や経営の維持に頭を悩ませています。かつては地域コミュニティの中心であったお寺も、時代の変化とともに人々の生活から遠ざかりつつあるのが現実です。
しかし、とある地域にある歴史ある寺院の住職は、わずか数年で年間の葬儀件数を9件から約80件へと、驚異的なペースで増加させました。特別な広告を打ったわけでも、奇抜なイベントを仕掛けたわけでもありません。彼が行ったのは、「お参りを丁寧にする」という、僧侶として最も基本的な活動の徹底でした。
今回は、この住職がいかにして周囲の信頼を勝ち取り、お寺を再興させたのか、その具体的な戦略と実践について紐解いていきます。
「選ばれる理由」は現場にあり:葬儀社との信頼関係
住職がまず取り組んだのは、自らお寺の特性を理解し、手当たり次第に様々な活動を試すことでした。学習教室の開催など、自分に合うもの・合わないものを一つずつ見極めていく中で、彼が確信した成功への鍵は**「目の前のお参りを誰よりも丁寧に行うこと」**でした。
この愚直な姿勢を真っ先に評価したのは、地域住民ではなく、実は地元の葬儀社でした。 「あのお寺の住職は、一つ一つの供養が本当に丁寧だ」 現場で多くのお寺の所作を見ている葬儀社の担当者からそう認められたことで、葬儀社側から「ぜひ紹介させてほしい」という依頼が舞い込むようになったのです。
かつては「月に一度葬儀があるかどうか」という状況だったお寺は、こうして外部のプロフェッショナルからの信頼を得ることで、年間70〜80件もの葬儀を執り行う活気ある場所へと変貌を遂げました。
顧客満足を超える「メモの習慣」
住職が信頼を維持するために欠かさない、もう一つの強力な武器があります。それが、檀家さんや喪主の方々との会話を詳細に記録する**「メモの習慣」**です。
葬儀や法要の際、住職はご家族と多岐にわたる話をします。
- お子さんの名前や年齢、所属している部活動
- 故人の職業や趣味、好きだったもの
- 入院していた時の細かい状況や、亡くなった時の様子
「素晴らしい会話ができたと思っても、人間は時間が経てば忘れてしまう。それでは申し訳ない」という思いから始まったこの習慣は、数年後の法要で大きな力を発揮します。
数年ぶりに会った住職から、「あのお子さんは、もう7歳になりましたか?」とか「以前おっしゃっていた趣味の件はどうなりました?」と、当時の話を正確に踏まえて声をかけられたら、誰しもが「自分のことを覚えていてくれた」と深い感銘を受けます。
あまりに細部まで覚えているため、時には「なぜそんなことまで!」と驚かれることもあるそうですが、この**「一人ひとりと向き合う徹底した誠実さ」**こそが、一度きりの縁を「生涯の繋がり(檀家)」へと変える決定打となっているのです。
地道な草の根活動
この住職が仕えるお寺は、実はその地域でも屈指の歴史と高い格式を持つ「名刹」です。本来であれば、座して待っていても人が訪れるような立場かもしれません。
しかし、住職はあえてその「格」に甘んじることを良しとしませんでした。お寺が経済的に危機的な状況に陥った際、彼は自ら地域の交流会に足を運び、人脈を広げる努力を惜しみませんでした。
さらに、ネット系の葬儀仲介サービスなどを通じた小規模な葬儀も、抵抗なく受け入れました。こうした小さな縁の一つひとつを大切にし、マージンの仕組みや業界の実態を身をもって体験しながら、今の時代に求められる寺院のあり方を模索し続けたのです。
「下っぱの苦しみを知れ」という教えを胸に、格式あるお寺の看板を背負いながらも、最も低い場所で丁寧に人々と接する。この姿勢が、結果として地域で「最も選ばれるお寺」という確固たる地位を築くことになりました。
まとめ:再興への道は「基本」の先にある
葬儀件数9倍という数字は、決して魔法のような手法で達成されたものではありません。
- 現場のプロ(葬儀社)から信頼される仕事をする
- 一度の会話を大切に記録し、何年経っても寄り添う
- 格式に縛られず、自ら動いて縁を広げる
この事例は、どんなに時代が変わっても、人と人との信頼関係は「どれだけ丁寧に、誠実に向き合ったか」という一点に集約されることを教えてくれます。





