葬儀の変容と簡略化―失われゆく儀式の意味

はじめに

日本の葬儀のあり方が大きく変わっている。家族葬、直葬が当たり前となり、葬儀にかける時間も費用も縮小の一途をたどる。コロナ禍はその流れをさらに加速させた。しかし、簡略化の背後で失われているものは何か。ある寺院の住職へのインタビューから、現代の葬儀が抱える深刻な問題が見えてきた。

「繰り上げ法事」という異常事態

現代の葬儀で最も象徴的な変化が「繰り上げ初七日」である。本来、初七日は亡くなってから7日目に行う法要だが、現在では葬儀当日に済ませてしまうこともある。

しかし、事態はさらに進んでいる。「繰り上げ法事」という、火葬の時点で初七日を済ませてしまうプランまで登場しているのだ。「意味わかんないじゃないですか。もうその時点で初七日も来てないし」と住職は嘆く。

ある住職が経験した葬儀では、葬儀の時間が20分程度で終わり、そのまま火葬へ。火葬場から戻った時に、通常であれば精進落としの際に行われる法要が、そのまま続けて行われたという。「これは初七日なのかっていう風に言われたので、これはちょっとその省略させてもらおうと思って」という状況だ。

「何のためにこのお葬式があるのか、何のためにその初七日があるのかっていうのがだんだんこうアバウトになりすぎて」いる現実がある。

都市部から全国へ広がった簡略化

この繰り上げ初七日は、もともと都市部など火葬場の待ち時間が長い地域で始まった。「火葬の待ち時間が長すぎてしまって、繰り上げ法要をやるってのがまず始まりだった」という。火葬を待つ間の時間を有効活用するという、ある意味合理的な理由があった。

しかし、「都市部の業者が全国に展開でそういうことをやり始めたのがきっかけ」で、火葬の待ち時間が短い地方にまで広がってしまった。本来不要な地域でも、葬儀社のプランとして組み込まれ、「これが普通です」として提示されるようになったのだ。

「繰り上げ初七日っていうのがチェックされてる」状態で、多くの遺族がその意味も理解しないまま、プランに従っているという現状がある。

家族葬の功罪

「小さなお葬式」に代表される家族葬も、今や主流となった。「家族葬が当たり前っていう風になってしまってる」現状に対し、住職は疑問を投げかける。

「主役になるのが生まれた時と、亡くなる時と、結婚する時」という人生の節目。特に葬儀は「その人の歴史をたどる上で一番重要なところの2つ目」であるはずだ。「その主役となるその日になぜ家族だけでするんだろう」という問いかけは重い。

「儀式の義っていう字は人に見送られるという意味があるんですよ」という説明は示唆に富む。家族だけの「偏った見方、偏った考え方でその葬儀をするのと、全然会社の方とか近所の方とか御親戚とかっていうそれぞれに思うその個人様に対する思いとかイメージとかそういったものを大便はできないから」

住職は「お金の問題があるので小さくてもいいです」と譲歩しつつも、「ただ参列するのは誰でもどうぞっていう環境は必要なんです」と強調する。たとえ10分でもお焼香できる時間を取ることが、葬儀場の本来の役割だという。

枕経の消失

「お葬式でやっぱりもうここで多いのが枕経がないってことが多い」という指摘も深刻だ。枕経は、故人が自宅に戻った際に仏様に最後の挨拶をする儀式である。

「亡くなってしまってる個人様が伝えれないからこそに我々僧侶が個人様に変わってしっかりとそのありがとうございました。今まで本当にお世話になりましたって気持ちを仏様に伝える儀式なんです」という説明を聞くと、「そういう意味なんですね」と理解を示す遺族が多いという。

しかし、多くの葬儀では枕経が省略される。「枕経があったらあと続くんですよね、色々と」という言葉通り、枕経は葬儀全体の入り口となる重要な儀式だ。それが失われることで、葬儀全体の意味が希薄化していく。

さらに問題なのは、宗派による違いの混乱だ。ある宗派では枕経の際に刀を遺体に乗せない。「霊を信じないっていうところで、あれは獣を斬るっていう守り刀」という考えからだ。しかし、遺族や葬儀社がそれを理解しておらず、「神道と仏教がごっちゃになってる」という事態も起きている。

オンライン葬儀という選択肢

コロナ禍で一時期注目されたオンライン葬儀やZoom葬儀。しかし、これには明確な反対意見がある。

「最後こう亡くなった個人様に対して敬意を払う、感謝を伝えるっていうのが、遺体がある場所なので、だからそういう場合に足を運んでこそ本当のお葬儀」という考えだ。「そんな形でお参りしたと言えるのかどうか」という疑問は、多くの僧侶が共有している。

「ボタンピッてやったらなんかお焼香のボタンみたいなのがあって」というオンライン葬儀の仕組みに対し、「それが通例になってしまうと困る」という危機感がある。

ただし、コロナ禍で亡くなった方の葬儀について、「コロナでもNGのところもあるんで」という寺院がある中、「そんなこと言ってたらもう何も伝わらないじゃないですか」という場合もあれば「全然全然いいですよ。もうやりましょうよ」と積極的に対応した住職もいる。

だが結果として、「今もオンライン葬儀オンライン法要ってなくなりましたよね」という状況になった。一時的な便宜としては受け入れられても、恒常的なものとしては定着しなかったのだ。

一日葬という流れ

「首都圏、特に東京は一日葬がもう主流なんですよ」という現状もある。通夜を行わず、葬儀・告別式のみで済ませる形式だ。

「寺さんからすると楽になってるらしいんですよね。通夜やんなくて良くて同じ金額分をもらえるからもうそれでいいやみたいな感じになってる」という指摘は厳しい。「でももうそうなってしまうともう終わりですよね。寺がそうしてしまうんだから」

ある住職は、葬儀社の紹介で一日葬を依頼された際も、「お金ないんだよね」と言われたら「それ別にあれだよ。その減額してでもやっぱりやってあげる。ちゃんとしっかりと儀式作法というのやってあげたらそれがやっぱり伴侶伴っていうかちゃんとなると思うんで」という姿勢を貫いている。

本来であれば「枕経から通夜、通夜、葬儀、火葬、全部フルセットやりたかった」が、親戚の都合もあり一回で、という依頼。それでも「実は通夜もやりたかったんだ」という遺族の本音を聞き、「初七日からまた来てくれる」と依頼され、結局すべての法要を行ったという事例もある。

戒名を巡る誤解と簡略化

葬儀の簡略化は、戒名を巡る問題とも関連している。「この寺さん戒名料高いんですよ」という不満は多いが、「そもそも戒名料ってなんで発生してるか知ってます?」という問いに答えられる人は少ない。

本来、戒名は「寺院ないし、そういう奉仕をしたとかその個人さんが徳を積んだっていうお礼で寺から何もないから元々お支払いできるものないとかやっぱりこう礼っていうもの」として授けられるものだった。「急に何もしてない人が戒名つけてくれって言われて寺からするとそんな簡単に戒名なんかつけれないんじゃないですか」

「そういう対価としてじゃあこれだけのお支払いいただけるんであればじゃあ戒名をつけましょう」という流れなのだが、「急にその寺側がこう足元見てじゃこれだけくれたらつけてやるよっていうわけじゃない」という説明は、ほとんど知られていない。

葬儀も本来は「この人が徳を積んだから出家させるという意味でお葬儀っていうのがされる」ものだ。「徳を積んでないのにもう言ためればみんな誰か誰かこの出家させるってことが本来はできない」。だからこそ「その対価としてお金というもので、お布施という形で故人さんに徳を積んでもらって」という意味があるのだが、「本当にほとんどの方知らない」のだ。

葬祭プランナーの問題

葬儀の簡略化を推進する一因として、葬祭プランナーの存在がある。「今よく終活プランナーさんとか葬儀のそのプランナーさんみたいな人が、それが正しいかのごとくそういう情報流してくれてるんですけど色々間違ってる」という指摘だ。

「民間資格でもなんか正しく感じてしまいますもんね」という問題。「名刺とかに書かれて方が書き書かれてたらもうその人の言うことって正しいっていう風にこういう風なマインドコントロールになってしまう」

「プランナーは何してんの?だって思ってしまう」「そういうのこそちゃんとこういう意味なんですよっていうのを解いてでそれを納得させていただいた上でお葬儀っていうものも行わないと」。しかし実際には「ただ業務的にこれだけかかります。こんだけこういうことがありますっていうので納得説明を得ないっていうような環境で葬儀終わったらもうそのな後だけ後からそういう不満ばかりが残ってしまう」という状況だ。

「どこで誰がその資格を与えた資格なんですか」という根本的な疑問に対し、十分な教育や研修なしに資格を名乗っているケースも多い。本来であれば、「プランナーが本当にこういう寺さんによくよく相談するなりどういう意義があるんですかってよくよく学ぶっていう場所を整えて学んでそしてその後にプランナーという肩書きを名乗るんであれば納得いく」はずだ。

結語

葬儀の簡略化は、時代の流れとして避けられない面もある。しかし、「何のためにこのお葬儀があるのか」という根本を見失ったまま、ただ効率化や費用削減だけを追求すれば、葬儀は単なる「遺体処理の手続き」に堕してしまう。

「確かにお金はかかるけれども亡くなった時に主役になる」という視点、「人に見送られる」という儀式の本質を、現代人は改めて考える必要がある。簡略化そのものが悪いのではなく、意味を理解した上で選択することが重要なのだ。

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