葬儀社の働き方改革:24時間対応から脱却する業界の挑戦

葬儀社の働き方改革が進まない理由

多くの業界で働き方改革が進む中、葬儀業界は依然として「24時間365日対応」が当たり前とされています。しかし、実際の現場では、スタッフの健康と業務の質を保つため、様々な働き方改革が試みられています。

今回は、葬儀社が直面する労働環境の課題と、働き方改革への取り組みについてお伝えします。

葬儀社の労働環境:昔と今

かつての「当たり前」

10年前、20年前の葬儀業界では、以下のような働き方が当たり前でした。

深夜の呼び出し:

  • 夜中2時、3時の電話は日常茶飯事
  • 「今から枕経に来てください」
  • 「3時に亡くなった。5時には来てほしい」
  • 家族が集まる時間に合わせて対応

休日という概念の欠如:

  • お盆、正月も関係なし
  • 連日の葬儀対応
  • 休める時に仮眠を取る程度

ワンコール切り:

  • お寺への深夜のワンコール(電話を鳴らしてすぐ切る)
  • 「今日は出ない」とお寺側が判断することも
  • 業界の悪しき慣習

現在の変化

近年、少しずつ変化が見られます。

深夜対応の減少:

  • 真夜中2時、3時の連絡は激減
  • 葬儀社も業務時間を明確化
  • お寺側も無理な時間帯は断るように

しかし残る課題:

  • 依然として「葬儀屋は24時間」という認識
  • 働き方改革への理解不足
  • 職業差別的な扱い

ある葬儀社の働き方改革:具体的な取り組み

とある葬儀社の変化

創業当初から徐々に規模を拡大してきた葬儀社では、以下のような働き方改革を実施しています。

働き方改革の内容:

  • 残業の削減
  • フレックスタイム制の導入
  • 分業制の徹底
  • コールセンターの活用
  • アウトソーシングの活用

夜間対応の新しい仕組み

従来の方法:

  1. 夜中に電話が入る
  2. スタッフが直接対応
  3. すぐに現場へ駆けつける
  4. そのまま朝まで対応

新しい仕組み:

  1. 夜中の電話はコールセンターが受付
  2. アウトソーシング業者が搬送対応(最大1時間半以内)
  3. 遺体の安置、ドライアイス設置まで実施
  4. 翌朝9時半にキーパーソンに連絡
  5. 本格的な打ち合わせを開始

この仕組みのメリット:

  • スタッフの睡眠時間確保
  • 深夜の無理な移動を避ける
  • 冷静な判断ができる時間帯に対応
  • 事故リスクの軽減

しかし直面する壁

この新しい仕組みに対して、理解が得られないケースもあります。

遺族の反応:

  • 「え、今じゃないの?」
  • 「葬儀屋なのに、すぐ来ないのか」
  • アウトソーシング業者からの説明でも不満

病院からのプレッシャー:

  • 亡くなった後、2時間程度で退室を求められる
  • 遺族は焦る
  • 葬儀社に即座の対応を期待

ジレンマ:

  • 働き方改革を進めたい
  • しかし、顧客満足度も大切
  • 業界全体の理解が必要

分業制導入のメリットとデメリット

一貫対応から分業制へ

葬儀社が成長すると、必然的に分業制が進みます。

創業期の対応:

  • 1人のスタッフが最初から最後まで担当
  • 深い信頼関係
  • 細やかな対応

現在の分業制:

  • 受付担当
  • 搬送担当
  • 打ち合わせ担当
  • 式典担当
  • アフターフォロー担当

分業制のメリット

業務効率化:

  • 専門性の向上
  • 同時並行での対応が可能
  • スタッフの負担分散

働き方改革の実現:

  • 定時での業務終了が可能に
  • 休日の確保
  • 残業の削減

品質の安定:

  • マニュアル化
  • チェック体制の強化
  • ミスの減少

分業制のデメリット

リピーター客の不満:

  • 「前回と担当者が違う」
  • 「前はもっと丁寧だった」
  • 人間関係の希薄化

情報共有の難しさ:

  • 引き継ぎミス
  • 細かな要望が伝わらない
  • スタッフ間の連携不足

スタッフのモチベーション:

  • 「また○○さんの案件か」と嫌がられる
  • 前任者と比較されるプレッシャー
  • やりがいの低下

リピーター客への対応という課題

5年、10年のスパン

葬儀業界のリピーターは、他業界と大きく異なります。

他業界:

  • 数日から数ヶ月でリピート
  • スタッフもシステムもほぼ同じ

葬儀業界:

  • 5年、10年のスパンでリピート
  • その間に会社も人も大きく変化
  • 「5年10年は一昔」

リピーター対応の苦悩

【事例】10年ぶりのリピーター客

  1. 10年前に父親の葬儀を担当
  2. 今回、母親が亡くなり再度依頼
  3. 前回担当したスタッフは現在、東京本社勤務
  4. 「また頼むね」と直接連絡が入る
  5. 「東京にいるので対応できない」と説明
  6. 別スタッフが対応するが比較される
  7. 細かなクレームが発生

対策:

  • 創業メンバーは現場に出ない
  • リピーター案件は慎重に対応
  • スタッフへのフォローを手厚く
  • お客様とスタッフ双方をケア

社内での反応

ある葬儀社では、Slackで案件管理をしています。リピーター案件が入ると、誰が前回担当したか表示されます。

スタッフの本音:

  • 「また○○さんの案件来た…」
  • 前任者の評価が高いとプレッシャー
  • どんなに頑張っても比較される
  • クレームのリスクが高い

このため、創業メンバーの案件は皆が嫌がる状況も生まれています。

熱中症対策とクレーム

試験的なクールビズ導入

真夏の葬儀は、スタッフにとって過酷な労働環境です。

真夏の現場:

  • 屋外での作業
  • スリーピースの正装
  • 炎天下での長時間立ち仕事
  • 熱中症で倒れるスタッフも

クールビズの内容:

  • ネクタイを外す
  • 第一ボタンを外す
  • それ以外は従来通り
  • 事前に一言断りを入れる

即座に中止となった理由

導入から1週間も経たずにクレームが発生しました。

クレームの内容:

  • 年配の親族から苦情
  • 「葬儀屋のくせにネクタイもしないのか」
  • マナー違反だと指摘

葬儀社の決断:

  • すぐに元の服装に戻す
  • スタッフの健康よりも顧客の印象を優先
  • 熱中症対策は別の方法で

スタッフの本音:

  • 「きついけど仕方ない」
  • 命に関わる問題なのに
  • 職業差別を感じる

働き方改革を阻む「葬儀屋だから」という意識

職業差別の現実

葬儀業界では、今でも職業差別的な扱いを受けることがあります。

よくある発言:

  • 「葬儀屋なんだから昼も夜も関係ないだろう」
  • 「死んだ人相手の仕事なんだから」
  • 「いつでも対応できて当然」

現場の声:

  • 「私たちも人間です」
  • 「休息が必要です」
  • 「家族もいます」
  • 「健康も大切です」

お寺も同じ悩み

この問題は、お寺も同様に抱えています。

お寺の事例:

  • 深夜のワンコール切り
  • 「今すぐ枕経に来てください」
  • 「お寺なんだから当然」という態度

お寺の対応:

  • 「今日は出ない」と判断することも
  • 徐々に境界線を引くように
  • しかし、まだ理解は十分でない

医療・介護業界に学ぶ多職種連携

葬儀業界に欠けているもの

医療・介護業界では、多職種連携が当たり前です。

医療・介護の多職種連携:

  • ドクター
  • 看護師
  • ケアマネージャー
  • リハビリ職員
  • 薬剤師
  • 介護士

全員が連携して、患者・利用者を支えています。

葬儀業界での連携

葬儀も、実は多くの業種が関わっています。

関わる業種:

  • 葬儀社
  • お寺
  • 花屋
  • 料理業者
  • 石材店
  • 写真・ビデオ業者

しかし、これらがバラバラに動いていることが多く、連携が不足しています。

連携不足がもたらす問題

【事例】時間の行き違い

  1. 葬儀開始時刻を10時と案内(実際は9時)
  2. お寺は9時20分に到着(20分遅刻)
  3. 葬儀社は「お寺が遅れた」と遺族に説明
  4. 実際には葬儀社のミス
  5. お寺への不信感
  6. さらに「お経が早すぎる」とクレーム

このように、連携不足がトラブルを拡大させます。

理想的な連携

あるべき姿:

  • 情報の共有
  • 責任の明確化
  • お互いのフォロー
  • 遺族ファーストの姿勢

葬儀社とお寺が対立するのではなく、協力して遺族を支える体制が必要です。

働き方改革を成功させるために

葬儀社側の努力

透明性の向上:

  • 営業時間の明示
  • 夜間対応の仕組みの説明
  • スタッフ体制の説明

スタッフ教育:

  • 丁寧な説明スキル
  • クレーム対応
  • 期待値の調整

システムの整備:

  • コールセンター
  • アウトソーシング
  • 情報共有ツール(Slackなど)

社会の理解が必要

遺族・一般の方へ:

  • 葬儀社も人間だという理解
  • 働き方改革への協力
  • 深夜対応は緊急時のみに

業界全体で:

  • ベストプラクティスの共有
  • 業界団体での啓発活動
  • メディアへの情報発信

B2B営業の重要性

ある葬儀社では、医療・介護施設との連携(B2B営業)に力を入れています。

10年前:

  • B2C(一般客):90%
  • B2B(施設紹介):10%

現在:

  • B2C:60%
  • B2B:40%

B2B営業のメリット:

  • 安定した案件獲得
  • 医療・介護との連携強化
  • お一人様葬儀への対応力
  • 多職種連携の実践

まとめ:業界の未来のために

葬儀社の働き方改革は、業界全体の課題です。

現状の課題:

  • 24時間対応への要求
  • 職業差別的な扱い
  • リピーター客への対応
  • 分業制への理解不足

働き方改革の取り組み:

  • コールセンター、アウトソーシングの活用
  • 分業制の導入
  • 残業削減、フレックス制
  • 多職種連携の強化

実現のために必要なこと:

  • 社会の理解と協力
  • 業界全体での意識改革
  • 適切な情報発信
  • スタッフの健康と幸せを守る覚悟

葬儀業界で働く人々は、使命感を持って故人と遺族に向き合っています。しかし、彼ら自身も人間であり、健康で幸せに働ける未来があると思っております。

「葬儀屋だから24時間働いて当然」という意識を変え、健全な労働環境を実現することが、結果的により良い葬儀サービスにつながります。

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