生活保護の葬儀とお一人様葬儀の現実:知られざる実態

急増するお一人様葬儀と生活保護葬儀

現代社会において、お一人様葬儀と生活保護での葬儀が急激に増加しています。葬儀社の現場では、この10年で状況が大きく変化し、葬儀のあり方そのものが問い直されています。

今回は、実際に葬儀の現場で起きている生活保護葬儀とお一人様葬儀の実態について、葬儀社の視点からお伝えします。

お一人様葬儀の増加率:10年で3倍以上に

10年前と現在の比較

ある葬儀社では、お一人様葬儀の件数について以下のような変化が見られます。

10年前:

  • 月間約15件の葬儀のうち、お一人様葬儀は1件あればいい方

現在:

  • 月間約15件の葬儀のうち、お一人様葬儀は3〜4件

つまり、10年間でお一人様葬儀の割合が約3〜4倍に増加しています。

B2B営業とお一人様葬儀

特に注目すべきは、医療・介護施設からの紹介案件(B2B)におけるお一人様葬儀の割合です。

  • B2B案件全体の約7割がお一人様葬儀
  • 営業部門が獲得する案件の大半を占める

これは、医療・介護の現場で身寄りのない高齢者が増加している現実を如実に示しています。

お一人様葬儀とは何か

真のお一人様は少ない

「お一人様葬儀」と聞くと、完全に身寄りがない方を想像しがちですが、実際には異なります。

実態:

  • 四親等以内に親族がいるケースがほとんど
  • しかし疎遠で連絡が取れない
  • または関係性が希薄で葬儀に関与しない

真のお一人様:

  • 完全に身寄りがない方は実際には少数
  • 掘り下げていけば、遠くても親族がいることが多い

お一人様葬儀の流れ

  1. 病院・施設からの連絡
    • 医療機関や介護施設から葬儀社に直接連絡
    • 身元引受人や連絡先の確認
  2. 親族の捜索
    • 可能な限り親族を探す
    • 行政との連携
  3. 葬儀の執行
    • 簡素な形式での葬儀
    • 基本的には直葬が多い
  4. 納骨先の決定
    • 合同墓への納骨が一般的
    • 費用は生活保護または遺産から

生活保護での葬儀:制度と現実

生活保護葬儀の費用

生活保護での葬儀には、葬祭扶助という制度があります。

現在の支給額:

  • 約21万9,000円(地域により異なる)
  • 以前は20万6,000円程度

この金額でできること:

  • 遺体の搬送
  • 火葬
  • 最低限の葬具
  • 骨壺・骨箱

この金額でできないこと:

  • お寺を呼ぶ
  • 通夜・告別式
  • 豪華な祭壇
  • 会葬返礼品

葬儀社のコンプライアンス問題

かつては、生活保護葬儀でも追加料金を頂いて通常の葬儀を行う葬儀社もありました。しかし、現在はコンプライアンスの観点から、多くの葬儀社が制度の範囲内でしか対応しません。

葬儀社の方針:

  • 葬祭扶助の範囲内での対応が原則
  • 追加費用を求めることはNG
  • お寺を呼ぶことも制度上は認められない

しかし現実には:

  • 遺族がお寺を希望するケースもある
  • 制度と現実のギャップ
  • 断らざるを得ない葬儀社の苦悩

生活保護葬儀のトラブル事例

ある葬儀社では、以下のようなトラブルが報告されています。

【事例】不適切な対応をした葬儀社

  1. 生活保護の方の葬儀を受注
  2. 遺体を早々に火葬してしまう
  3. 「棺が玄関から入らない」と自宅での安置を拒否
  4. ベランダからの搬入提案も拒否
  5. 結局、葬儀社の施設で預かり
  6. 簡易的な火葬式のみ実施
  7. 総額40万円以上を請求(生活保護費21万円+遺族負担約20万円)

このケースでは、葬儀社が制度を悪用し、遺族から追加費用を徴収していました。本来、生活保護葬儀では追加費用を請求すべきではありません。

合同墓の需要増加

札幌市営合同納骨塚の実態

お一人様葬儀の増加に伴い、合同墓の需要も急増しています。

札幌市営合同納骨塚:

  • 一般価格:9,100円
  • 生活保護受給者:無料
  • 札幌市民のみ利用可能

10年前の状況:

  • 1,900円だった
  • 7〜8年前に拡張工事を実施
  • 「これで何十年も大丈夫」と言われていた

現在の状況:

  • ほぼ満杯状態
  • 一般の方も利用を希望
  • 葬儀相談で最も多い質問の一つ

全国的に見ても安い札幌

他都市との比較:

  • 東京:民間火葬場で約9〜10万円
  • 札幌:火葬が市民は無料、合同墓も9,100円

札幌は全国的に見ても、生活保護葬儀やお一人様葬儀に対応しやすい環境にあると言えます。

お一人様葬儀で葬儀社が直面する課題

1. 身元確認と連絡先の問題

お一人様葬儀では、連絡先がないケースも少なくありません。

実例:

  • 訃報通知に電話番号が記載されていない
  • スタッフが困惑
  • 「お一人様なので、身寄りがいない」と説明される
  • 戒名も参考程度につける

2. お布施の問題

生活保護葬儀では、お寺を呼ぶことが制度上認められていません。しかし、遺族が希望する場合もあります。

対応方法:

  • 制度の範囲内では対応できないことを説明
  • どうしても希望する場合は、自費での対応を提案
  • 多くの場合は諦めていただく

3. 後日の支払い問題

お一人様で生活保護を受けていた方の場合、お布施の支払いが後日になるケースもあります。

実例:

  • 成年後見人として就任している弁護士や司法書士等から後日振り込みという形
  • 遺産整理後の支払い
  • 葬儀社としては受け入れざるを得ない

医療・介護との連携の重要性

お一人様葬儀が増加する中、医療・介護との連携が不可欠になっています。

多職種連携の必要性

  • ドクター、看護師、ケアマネージャー、リハビリ職員など
  • 様々な専門職が連携して患者・利用者を支える
  • 葬儀社もこの連携の輪に入るべき

B2B営業の重要性

ある葬儀社では、医療・介護施設との連携を積極的に進めています。

営業体制:

  • 営業マン5人体制
  • 10年前:B2C(一般客)9割、B2B(施設紹介)1割
  • 現在:B2C 6割、B2B 4割

B2B案件の特徴:

  • 約7割がお一人様葬儀
  • 生活保護葬儀が多い
  • 安定した案件獲得

今後の展望と課題

増え続けるお一人様葬儀

高齢化と核家族化が進む中、お一人様葬儀は今後も増加し続けると予想されます。

予測される変化:

  • 合同墓の拡張と費用増加
  • 生活保護葬儀の増加
  • 簡素化・効率化の進展

制度の見直しの必要性

現在の葬祭扶助の金額で、果たして尊厳ある葬儀ができるのか。この問いに対して、社会全体で考える必要があります。

検討すべき課題:

  • 葬祭扶助の金額の妥当性
  • お寺を呼べない現実
  • 最低限の尊厳をどう保つか

まとめ

生活保護での葬儀とお一人様葬儀は、現代社会が抱える高齢化・孤独化の象徴とも言えます。

現場の実態:

  • お一人様葬儀は10年で3〜4倍に増加
  • 生活保護葬儀も確実に増えている
  • 合同墓の需要が急増

葬儀社の役割:

  • 制度の範囲内で最善を尽くす
  • 医療・介護との連携強化
  • コンプライアンスの遵守

社会の課題:

  • 孤独死の増加
  • 制度と現実のギャップ
  • 尊厳ある最期をどう保証するか

お一人様葬儀と生活保護葬儀は、決して他人事ではありません。誰もが直面する可能性のある問題として、社会全体で向き合っていく必要があります。

葬儀社は、限られた制度の中で、故人の尊厳を守りながら、最善のサービスを提供しようと日々奮闘しています。この現実を知っていただき、社会的な理解が深まることを願っています。

 

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